2010-09-29

何ができるか

                                                            
「あー、オレ日本語も全然だめだ。。。」

これは、6年生のある男子生徒の言葉です。
先日のキャンプで彼と話してからずっと、この言葉が頭から離れません。



派遣先の学校に、7月に日本からブラジルに来た男の子が2人います。
生まれた場所はブラジルですが、育ったのは日本。だから、ポルトガル語がよく分かりません。
両親との家での会話もほぼ日本語のみだそうなので、ポルトガル語に囲まれての学校生活は
とてもつらいものでしょう。

ブラジルの子供たちがいくら親しみやすいからといって、
やはり言葉が通じなければ人間関係を築いていくのは難しいものです。しかも思春期。
言葉がなくても心は通じるとも思う反面、
同じ7月にこちらに来て言葉の大切さを実感している自分だからこそ、
おごりかもしれませんが、2人の気持ちがすごく分かる気がします。
授業や宿題も、言葉が分からない状態で理解するのは至難の業です。



そんな2人と、先日のキャンプで一緒に活動する機会がありました。
下級生に向けてのメッセージを書いた掲示物を作るというものです。
自分の言いたいことが自信をもってポルトガル語で書けない彼らは、
他の子どもが書いたメッセージの隣に、日本語の文を書いていました。

 「・・・次の学年でも友だちとい(い)思(い)出をたくさん作(っ)てください。・・・」

「い」や「っ」が抜けるのは、国語(日本語)を習い始めた頃にはよくあること。
でも、この文を書いた彼は本当は中学生の年齢なのです。
この学校に編入する段階で、ポルトガル語の読み書きのレベルを考慮して、今の学年に
入ることになったそうです。 ブラジルで生まれた彼は、ポルトガル語を少し覚えた段階で
日本に渡り、また日本語の習得も十分でないままブラジルに戻ってきました。

わたしが「丁寧な字だね。いいこと書くし。で、ここに「い」と「っ」が入ると完璧!!」と言ったとき、
彼がぽつんとつぶやいたのが冒頭の言葉です。

2つの国を行き来するうちに、日本語にもポルトガル語にも自信を持てなくなってしまう状況は
残念ながら少なくありません。彼だって、いつか日本に戻るかもしれません。もしそうなったとき
日本語も忘れてしまっていたら…。
彼の焦りや不安が込められたこの言葉は、とても重く感じられました。



わたしにできることは何だろうか。
できることなんてあるのだろうか。

いろいろ考えましたが、答えはみつかりません。
とりあえず今日は2人の様子を見に、許可をもらって6年生の教室へ行きました。
美術では、三角定規と分度器での作図の授業でした。
「paralela」「obtuso」「agudo」などの言葉が分からなければ作図方法を知っていても
問題は解けません(ちなみに、それぞれ平行・鈍角・鋭角という意味です)。
それに、日本では∠AOBと書くのもAÔBとなっていたし、かなり混乱します。
彼らは、黒板をノートに写すので精一杯のようでした。

体育の授業では、活動が多いので2人ともいきいきと参加していました。
体育館を何周も走る持久走で、周りの生徒たちが次々とギブアップする中、最後まで
スピードを保って頑張って走る彼らのすばらしさに感動しました。その真剣な表情は、
厳しい環境の中でも自分に誇りをもって生きていこうと語っているようでした。

そして、2人にとって一番の難関はスペイン語の授業です。
ポルトガル語とスペイン語は似ている部分が多いので、ブラジルの子どもはどんどん
単語を覚えていきます。2人はポルトガル語も習得できていない状態で、スペイン語も覚え、
さらに英語の授業も受ける…。彼らの置かれている状況は本当に難しいと思います。



2人の他にも、8月に来た5歳の女の子や昨年来た13歳の女の子もいて、
日本で育った生徒がこの学校に編入してくるケースは多いようです。
わたしにできることはあるのか、あるとしたら何なのか、
まだよく分かりませんが、彼らが「今日は楽しかった」と言える毎日が続くように
応援していきたいと思います。
                                                                            

2 件のコメント:

  1. ブログ読んで、泣けてきた。
    日本で受けた研修中に聞いたことだ。現実なんだよね。
    きっと、アンジェリカがいることで彼らは救われていると思うよ。
    「自分のことを思ってくれる人が、考えている人が1人でもいる」その気持ちは、言葉にしなくても、伝わってるって思います。

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  2. Milenaありがとう。
    ダブルリミテッドの問題は、ブラジルと日本両方の教育現場でもっと考えていかないといけないなぁって2人に出会って強く思うようになったよ。
    頑張る!!

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